第25回 毎日俳句大賞

【選句体験記・その後】

なるほど!そうきたか!

文・鈴木節子

 毎日俳句大賞の大賞は、ある意味で対極の2句に決まったと思う。日常の小さなひとこまを丁寧に掬い取った〈エコバッグより柚子の香の文庫本〉と、見渡す限りの広々とした世界を描いた〈空をみて山みて田みて秋深し〉。エコバッグという新しいものと、古き良き日本の原風景、という意味でも対照的だ。それでいて2句とも、情景が心にありありと浮かんでくる。この2句が選ばれたことに、俳句の世界の幅の広さを感じる。色んな俳句があって良い。それを面白がって、楽しんで、これからも鑑賞していきたいと思う。

 

 作者お2人の俳句との向き合い方も対極だ。結社を3つ経験された、俳句歴40年の俳句サイト編集代表の方と、独学で始めて結社に属していない方。俳句の学び方には様々あって、これだけが正解、というものではないのだな、と改めて感じた。どんな形であれ、自由に大らかに句作を楽しむことこそ、俳句の王道と言えるのだろう。

 

 読者賞はかなり票が割れたようだ。無理もない。予選通過作品1,724句全部に目を通した一人として、うなずく。どれもこれも心を打つ、つぶぞろいの作品だ。これが予選通過ということなのかと納得した。しかも方向性がまったく違うものがどっさり。読者賞の選が分かれたのも当然だろう。そんな中、本選で大賞を選ぶ選者の方々のご苦労はいかばかりか。想像すら難しい。

 

 私が選んだ3句は入選とはならなかった。でも、いま読んでもやっぱり素晴らしい句だと思う。そしてその他にも、ずっと心に残っている素敵な句がいくつもある。だから伝えたい。予選を通過された皆さん、きっとあなたの大事な作品は、誰かの胸にちゃんと届いていますよ、と。

 

 今年も毎日俳句大賞の季節がやってきた。今回はどんな句が大賞をとるだろう。読者賞もあるらしい。千句を超える作品を読むのは大変だが、良句をこんなにたくさん、こんなに真剣に読む機会は、そうそうない。またチャレンジして、存分に味わわせてもらおう。投句も選句も毎年の励みにして、これからも俳句を楽しみたい。自由に、大らかに、長く俳句を作り続けていけたらと思っている。

 

【プロフィール】

 鈴木節子
 
 1966年生まれ、「翡翠」所属。母の影響で学生時代から俳句に興味を持っていた。2018年に勉強を始め、現在に至る。祖父が初孫誕生を詠んだ句が、俳句の原体験。

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