第25回 毎日俳句大賞

【選句体験記・その後】

心の窓を開け放して

文・西村五子

 毎日俳句大賞が決定しその冊子が我が家に届いた頃、同居の孫が中学生になった。

 読者賞の選句をした際に選ばせていただいた1句、
 
  大きめの制服の群れ山笑う

の情景が息子たちの時代から30年の時を経て再び私の前に現れた春でもあった。
 
 本選の上位入選の句は本当にどの句も素晴らしかった。私の選句した3句は本選入選ではなかったけれど、そのことで私の選句のレベルが低いとか、選句した俳句そのものに問題があるとかとは思わないでおく。あくまで私にとっての今回の選句の意味は、予選通過の俳句1724句のすべてを読んだということに尽きるのではないだろうか。受賞俳句の素晴らしさと本選選者の先生方の選句眼や選評の格調の高さの前に私は毎年圧倒され続けてきたけれど、今年私は予選通過の俳句すべてを読み、選句理由を考えぬいた。そのことで一層、本選選者の先生方の選評の中にある密度と奥行き、僅か2行でありながら文学作品ともいえる完成度の高さと品格を再認識したのだから。
 
●大賞及びに上位入選句について
 
  エコバッグより柚子の香の文庫本

 選評にある「新しい生活実感」という文言を噛みしめた。選者の小川軽舟先生は私が入っている俳句結社の主宰であり、常々指導を受けている身として改めて肝に命じなければ思う。

 コロナ禍にあっても変わらず家事をこなし好きな読書を続けている日常にこそ発見があることを教えられた。
 
  お使いに行って来た子の頬冷た

 「冷た」という言葉の裏には頬を触っている手の暖かさやお使いに行かせて心配をしていたことへの安堵も含まれている。

 「こんな時代であるからこそ、人が人に触れる句に魅かれる」という小澤實先生の選評に頷いている読者は多いと思う。
 
  さみだれや通学の路地眼裏に

 何歳になってもどこに暮らしていても誰にも忘れられない学校への道がある。

 雨が降っていたならばそこでの出来事はさらに色濃く思い出されてくる。傘を持っておいかけてきた母、一緒に一本の傘に入った友達、わざと傘を差さずに濡れていた放課後の公園、何もかも一瞬で脳裏に蘇る。

 この俳句が点字であったことを黒田杏子先生は触れておられず、「俳句という表現形式は時空を超える想いを書きとめられる、無二の文学」という最大級の賛辞を書いておられた。
 
 読者賞の試みは今後も是非続けてほしいと思う。俳句を詠んで応募するという一方向の愉しみに加え、選句という別方向の愉しみ方もあることを、多くの読者は知ることができた。私自身俳句を詠むことに行き詰まりを感じていた頃だったので、選句をしている時間は本当に心地の良いものだった。その上にモニターまでさせていただき、拙い文章ながらWEB上に公開されて得難い体験ができたことを重ねて編集部の皆様にお礼を申し上げる。

 ただ、この読者賞の選句がインターネット上に限られていることで、パソコンやスマホに不慣れな方々の参加の機会が無いことや、それによって選句に偏りが出てはいないかと言うことに一抹の心配はある。何らかの方法で解消していただきたいと思う。それとは逆に、パソコンやスマホに慣れた若い世代の方々が選句体験をなさることで、俳句に興味を持ち自ら俳句を詠む側にたって毎日俳句大賞に応募してくださることへの橋渡しになっていくとも考える。
 
 第26回毎日俳句大賞の募集も締め切られ、ほどなく予選通過の俳句が発表されて読者賞の選句の募集がスタートする。大賞など望むべくもないが、できることなら私の俳句も予選を通過して、読者賞の選句をなさる多くの方に読んでいただけたらと願ってやまない。
 
 私は今年も予選通過すべての俳句のささやきに耳を傾け、心の窓を開け放して、時空を超えてその俳句の世界に飛んでいく。
 

【プロフィール】

 西村五子
 
 昭和29年鳥取県境港市生まれ。鳥取県米子市在住。平成18年より俳句結社「鷹」の同人の方の元で作句開始。4年後自身も「鷹」へ投句を始め現在に至る。60才で退職ののち鷹中央例会関西に年三回程度参加して選句を経験。

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