毎日俳句大賞
第24回受賞作紹介

大賞

炎天や少年水を縦に飲む

湯田一秋
福島県会津若松市

 俳句は「生きている証し」という湯田さん。受賞作は昨年8月、暑い夏の日に生まれた。炎天のもと、部活に熱中している部員。休憩の指示が出ると、部員らは駆け寄り、ペットボトルや水筒を高々と上げて一気に飲んでいるのだ。少年の頃の自身の姿と重なったという。「愛するふる里、会津の自然や人とのふれあいを見つめながら、毎日、俳句ノートに書きためています」。昨年度、二〇一九年の毎日俳句大賞に初めて応募し「暮らしの俳句」で入選。受賞句の「春となるだけで腹へる生徒かな」も、あたたかな眼差しで生徒を詠んでおり、それぞれの表情まで見えるようだ。俳句結社には所属していないが、教員退職後、福島の俳人、小林雪柳氏から十二、三年ほど俳句を学んできたという。「人とのあたたかいふれあいを詠み、俳句をとおして、人との絆を深めていきたいですね」。電話の向こうの声は、きびきびと爽やかだった。
 

準大賞

いつかわが柩の渡る虹の橋

最東 峰
栃木県那須烏山市


「俳句はわが身の分身、細胞の一部です」という最東さん。昨年九月に激しい下血で入院。薄れる意識のなか「これは危ない。辞世の句を作らねば!」と決意したという。幸い一命を取り留めて退院。受賞作は、入院中に詠んだ百句近い句の中の一句で「まったくの生まれたままの〈詩神〉との二人三脚です」と語る。地元の栃木県立烏山高校在学中は文芸部に所属。雑誌「蛍雪時代」の選者を務めていた加藤楸邨氏の選に先輩が入り賞金500円に沸いた。それ以来、平畑静塔、加藤楸邨、今瀬剛一氏に学び、現在、黒田杏子主宰「藍生」に所属。毎日俳句大賞は三度目の入賞。「命のあるうちに、第三句集を出したいですね」と微笑んだ。

<優秀賞>
曲がるたび春濃くなりぬ千曲川
              青栁カズヒト   京都市右京区

見送つて取り残されし風の盆
              曽根新五郎  東京都新島村

白寿得て同じ齢の雛飾る
              相良文雄    相模原市南区

被災地の闇生きてをり初蛍
              齊木富子    神戸市兵庫区

万緑や山のごとくに兜太あり
              水野幸子    愛知県岡崎市
 

<入選>
立ち漕ぎのおでこ丸出し夏来る
              尾澤慧璃     横浜市磯子区

農継いで父の墓前に今年米
               白岩賢次     福島県会津美里町

淋しいよ昼の底からちちろ鳴く
                    佐野仁紀      大阪府吹田市

八月の誰も降りない縄電車
       多田せり奈  東京都江東区

母のいるかぎり首振る扇風機
       小林万年青  秋田市

みちのくの遺書みちのくの帰り花
       曽根新五郎  東京都新島村

更けてより踊り巧者の揃ひけり
       北野一清   横浜市金沢区

野うさぎの住みいる母の農具入れ
       田端欲句歩  京都府南山城村

人間に酒あり晒鯨あり   
       山地春眠子  東京都練馬区

桐一葉母とふたりの夕べかな
       柳堀悦子   埼玉県飯能市

鎌首に蛇の全力田を渡る
       廣 波青   三重県志摩市

春夕焼富士落城のごとく燃ゆ
       北見鳩彦   神奈川県小田原市

逆縁の流燈岸に近づけり
       柿沼洋子   埼玉県羽生市

翅透けて水の記憶の蜻蛉かな
       玉手のり子  神戸市東灘区

那智の滝満天星を流しけり
       佐野仁紀   大阪府吹田市

捕虫網補修流星群今宵
       宮川礼子   茨城県筑西市

海開かれず山開かれず夏終る
       森 一心   大阪府寝屋川市

青年の罵声を浴びし髪洗ふ
       牛飼瑞栄   長崎県佐世保市

往診へスコップを積む雪の夜
       井端久子   石川県珠洲市

子別れの鴉啼くたび空仰ぐ
       春名 勲   大阪府枚方市

検温の額にピストル日雷
       平野美子   東京都国分寺市

新藁を括る新藁匂ひ立つ
       藤井三枝子  和歌山県岩出市

父祖の地に生きて米寿や稲の花
       渡邊勉治郎  大阪府和泉市

たそかれや花盗人の小さき手
       菊池彩花   東京都中央区

光背の裏まで拝む秋の昼
       高橋透水           東京都中野区