私は、俳句好きの有志が集まる句会に月一回のペースで参加させていただいている。
一人五句の持ち寄りで、総句数は百句に満たない。その選句は、特選三句、並選十句と決められているが、俳句初心者の私には手に汗握る体力消耗の時間だ。
しかし、今回初めて行われる毎日俳句大賞における読者賞の選句は何と1724句である。
正直、自分にはできるかと頬を紅潮させてしまった。そして、全国からの予選通過句の多さだけでなく、一句一句の研ぎ澄まされた素晴らしさに圧倒された。予選通過作品の発表初日には夜中の二時すぎまでパソコン画面から離れることが出来ず、一気に入選句0001から1724まで熟読してしまった。
かつて設けられたことがないであろう、俳句応募者が選句に参加できる読者賞という形は、もしかすると各種の俳句大会の中で根付き、定番になっていく可能性も秘めているのではないか。
さて、私が感銘し選句した三句は、まず
である。
囲炉裏が日常生活の中心にあった遠い時代に思いを馳せることができる。大家族が集い食事をし、酒を飲み、楽しい会話がなされたことだろう。日本人が忘れかけている慎ましやかで穏やかな暮らし。眠りにつく前の、囲炉裏の火を落とすために湿った灰をかける動作が映像として見えてくるようである。火の神に対する恐れ、敬意からの言葉なのか、下五の「鎮めけり」が心憎い。
次に
この句は厳冬の氷瀑への挑戦であるアイスクライミングを詠んでいる。冬山の威厳にみちた世界である。ハーケンが今まさに氷瀑に打ち込まれた。静まり返った山中に金属音が響き、谺となってクライマーに返ってくる。作者は、下方の岩場で見ているのか、あるいは作者自身がクライマーなのか。静寂の中に金属音と谺が響く緊張感が伝わってくる。
最後に選句した三句目は、
である。
コロナ禍の一年が無事に過ぎ、今新しい年が始まった。そして明けはじめていく空を見上げた時、新たな年に希望を見出す。作者の前を向く実直な性格が下五の「第一歩」という言葉に感じられる。そして、作者と一心同体の盲導犬もその一歩を同時に踏み出してくれた。作者の盲導犬に対する愛情とお互いの信頼関係を知ることが出来る。
悲しいことが多く落ち込むことがある毎日だが、俳句に対して切磋琢磨している方々がこんなにも沢山、全国にいらっしゃることを知ることができた。私の生きていく力になったことは確かだ。皆様の俳句の素晴らしさに少しでも近づけるよう私も日々精進していきたい。
今回の読者賞の選句をしたことは私の心への贈物のように高揚感に満ちている。
奈良部美幸
1960年生まれ。20代前半に「白魚火」「いまたか俳句会」に加入するも、仕事・介護のため作句を断念。長いブランクを経て、令和2年2月より再び俳句の勉強をスタート。