【選句体験記】

「マイルールを設定して選句してみたら」

 文・みやび

 1742句。読まないことには始まらないけど、すごい数である。無心に読もうとするけど読めない。雑念が入る。飽きる、ごめんなさい。読むのがつかれる。先が思いやられる。

 そこでルールを作ることにした。

 ルール1「五七五が守られている句で、自分が好きだな、と感じた句を選ぶ」。今更かもしれないけど。

 ルール1を決めたらするすると読めた。俳句だもん、「五七五」のリズムは大事だね。

 そして選句しながら「五七五が守られている句」というのは、「句またがりがあっても十七音で構成されている句」ということにした。リズムよくするりと読める。句またがりがあっても十七音に収まっていると、文章の変なところで切れるのも面白さに転じる。なるほど楽しい。

 そうやって読んでいったら140句選べた。選句には、自分なりのルールをもって臨むとよい。

 ここから3句をいきなり選ぶのは難しいと感じたので、追加ルールを作って、そこからさらに選句することにした。

 でも、次はどんなルールにしたらいいのだろう。

 140句を読み返しているうちに、言葉が美しかったり、かっこいい感じがして好きだけれど、「何を言っているかよくわからない」句があることに気づく。

 そこでルール2「何を伝えようとしているのかわからない句は外す」

 でも、このルールでは120句くらいまでしか絞れなかった。ルール3を設けなければならない。句を読みながら考え続けていると、パッと閃く。「作者自身が“見た・聞いた・感じた”であろうことを詠んだ句を選ぶ」というのはどうだろう。実景句を選ぶ、ということだ。

 ルール3「作者自身が“見た・聞いた・感じた”であろうことを詠んだ句を選ぶ」

 このルールで句を読んでみると、これは創作だろうな、と感じる句が見えるようになった。
創作された句も美しく素敵だと思ったが、ルール3で選ばれる句には臨場感があり、作者がその句を詠んだ時の感覚を、自分が感じたかのように感じられた。これで60句を選ぶことができた。

 この60句を、もう一度ルール3で読み直し、私が最終的に選句したのがこの3句です。

 0044 どこからが水どこからが薄氷

 冬日に池や水盤に薄い氷が張っているのは見たこともあるし、知っているけれど、それを「どこからが水で、どこからが薄い氷なんだろうねぇ」って詠んでくれることで、私の眼前にぱっと情景が浮かぶ。

 「ほんとにねえ、どうなってるんだろうねぇ」と作者と一緒に池をのぞき込んでいるような気になる。時間と空間を超えて、作者とともにいて、一緒に笑いながら池を見ているような感覚になった。楽しい。

 0488 関節で繫がるからだ盆をどり

 からだってものは、関節で繋がってるんだなぁということを、自分が盆踊りで踊っているときに、ふいに気づいたのか、それとも踊っている人を見て、感じたのか。

 どちらにせよ、作者が盆踊りの現場で、からだって関節で繋がって、からだになってるんだな!! おおお! と驚いたことが私に伝わってきたわけだ。

 使われた言葉にはちっとも風情なんかないのに、素直に気持ちを平易な言葉で綴ることで私にもその気持ちが伝わってきて、ほんとだねぇ、不思議だねえと私も驚いちゃった。

 1144 虫時雨一歩で止んで闇となり

 虫時雨って、「音」じゃないですか。で、歩きだしたら、その「音」がピタッと止まる。経験上よくわかる。で、音が止んだのだから「静寂」(音の世界)が来るはずなのに、訪れたのは闇。でも実感としてよくわかる。

 虫の音が一瞬で消えたら、どっと闇が押し寄せてきて慄いてしまった感覚。読んだ私まで暗闇に取り残されたような感覚に襲われて震えた。

 とてもとても面白く素晴らしい経験だった。

 自分でルールを作って、選句する。今の私がどういうふうに世界を見て、感じているのか、を知ることができた。人が作った句で情景と気持ちを分かち合う経験をすることができた。

 1724句をもう一度同じルールで選んだとしても、違う句を選ぶかもしれない。ルール自体を変えるかもしれない。選句はなまものなのだ。次は別の作者と情景と気持ちを分かちあうのかもしれない。

 この瞬間を生きている私が、この瞬間の私で選句をすることの面白さ。選句とは、今この瞬間の自分を知ること。感じることだ。そして、自分以外の人と感覚を分かち合う経験だ。

 今回設定したルール(マイルールと呼ぶことにする!)を頼りに選句しながら、「選者の先生方も、もしかしたらマイルールを設定して選句に臨まれているのかもしれないな」とふと思った。そう思いついたら、烏滸がましくも「きっとそうに違いない!」と思ってしまった。

 だって、読めないもん。経験したからわかるもの、マイルールがなかったら、句の海で溺れてしまっていたと思う。

 だから、選者の方々も、きっとマイルールがあるはず!と仮定してみる。

 大賞が決定したら、選者の方々が選句をされた句を拝見できる。選者の方が選んだ句と選評を拝見して、マイルールは設定されているのか、設定されているのであれば、どんなルールなのか。私のマイルールとどう違うのか、探ってみたい。

 この探索をすることで、きっと私が見て、感じる世界が広がる気がする、それによって、私の俳句の世界が広がる気がする。とても楽しみだ。
 

【プロフィール】

 みやび
 
 「俳句歴20年。激務の隙間でちゃちゃっと五七五するだけだった。もっと俳句に向き合いたいと思っていたら、突然出会った毎日俳句大賞。投句はできなかったけど1724句からの選句チャレンジ、得難い経験になりました。」