【選句体験記】

「俳句って本当にいいな」

 文・鈴木節子

 一七二四句! こんなに沢山の句を一度に読んで選句するなんて。でも何事も挑戦、とノートと鉛筆、歳時記のアプリの入ったスマホをデスクにそろえ、パソコンに向かいました。

 読めども読めども延々とつづいて、まるでマラソンみたいです。でもリストの後ろの方の良い句を見落としてはいけません。集中力が落ちる前に休みを入れながら頑張りました。一七二四句を読み終え感じたことは――。

 まず、秀でた句は季語と句の内容の響き合いが素晴らしいということ。例えば

 0848 ジェットコースター今天辺に夏来る

 ジェットコースターがゆっくりと頂上に上がった瞬間をとらえ、「天辺」という言葉でこれから始まる興奮と躍動感を想起させます。そしてその後に続く季語が「夏来る」。ジェットコースターに乗ったのは夏の初めだったのでしょう。でもそれだけにとどまらず、これから始まる季節が瑞々しく輝かしい、チャレンジと冒険の日々となることまで期待させてくれます。

 季語が近すぎると句が狭くなる、広すぎるとまとまらない、と聞きますが、本当にその通りなんだな、とこの句を読んで改めて感じました。予選を通過した秀句ばかりの中から特に優れたものを探したからこそ実感できたと思います。

 また、実体験を描きましょう、とも聞きますが、どんな実体験をどんな言葉で表すかが大切、とも感じました。一点をとらえて具体的に描写するのも素敵ですが、大きくとらえて意表を突く表現をしている句にも惹かれました。

 0164 母の日の母でいること難かしく

 母の日の母ってどんなお母さん? 思い浮かんだのは、子供から慕われる、優しくて大らかな、理想のお母さんです。でも実際は母の日といえども子供を叱ったりバタバタと掃除をしたり、お母さんは大変で、なかなか一日中にこにこしているわけにはいかないですよね。とてもありそうな、でも誰も描いたことのない母の日の一場面を取り上げ、しかも具体的に描かないことで読者に立ち止まって考えさせる技。素晴らしいと思いました。

 そして何より感じたのは、一句の芯、訴えかける内容の強さが大切だということです。胸を打つメッセージは一読で記憶に刻まれます。

 1445 八月の耳よミュートをオフにせよ

 八月になれば新聞でもテレビでも広島、長崎の原爆や戦争の特集のない年はありませんが、SNSの発達とともに、興味のないことは耳に入ってこない環境に身を置くこともできるようになりました。そんな状況を作者は「ミュート」と表現し、大切なことにはしっかりと耳を傾けようと呼び掛けています。八月という重いテーマを選んだ決断、そしてカタカナのミュート、オフという軽やかな言葉を選んだバランス感覚に脱帽です。

 選句マラソン(勝手に命名)、大変でした! でも参加した甲斐がありました。胸を打つ句、共感する句にたくさん出会いました。作った方お一人お一人の人生の一場面に触れた気もします。

 たとえば、リストに隣同士で並んでいた夏の句、

 0093 病窓の手を振る吾子よ蟬の坂
 0094 父と子の背丈を足して捕虫網

 は、その対比に胸を突かれました。帰っていく親御さんに病室から手を振る子どもの姿には、早く退院の日を迎えて欲しいと願わずにはいられません。対して、その後につづく捕虫網の親子は何と健やかなことでしょう。違う方の句かしら、同じお子さんの退院後の情景だったら良いな、などと思いつつ読みました。さらに次の

 0095 監督のサイン真っ直ぐ風五月

 は、たくましく育った少年(少女かもしれませんね)が、親―子よりひと回り大きな世界で挑戦している様子が思い浮かびます。偶然並んだ違う方の句なのだろうと拝察しますが、この3句はお互いに響き合って私の心を捉えました。また、

 0967 冬薔薇告知受け入れねばならず

 は「冬薔薇」の措辞で凛とした気丈な人物が浮かびますし、

 1089 二階まで老母押し上げ揚花火

 には、家族の気取らない間柄と日々の生活を楽しむ様子が透けて見えます。

 読者賞の選句に挑戦することで、たくさんの方の人生の大切な場面に触れることができました。人生の一瞬一瞬を切り取って言葉にする俳句って、本当にいいなと感じます。また来年も同じ企画をしていただけたらと思います。有難うございました。
 

【プロフィール】

 鈴木節子
 
 1966年生まれ、「翡翠」所属。母の影響で俳句にずっと興味があったものの、勉強を始めたのは2018年という新米です。今回毎日俳句大賞に2句応募し、1句が予選通過となって大変喜んでおります。