本の森

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2021年以後の刊行書から順不同でご紹介します

佐藤弥澄句集『ねぶた』


  令和4年1月
  繁栄舎印刷株式会社
 

 平成17年から令和2年までの句を収録する第2句集。著者は昭和20年、青森県蟹田町(現・外ヶ浜町)の生まれで、現在は奈良県宇陀市在住。長年警察官として勤め、在職中から句作し、定年後は「山茶花」で研鑽を積んでいるそうです。

 

 『ねぶた』には警察官の仕事が詠まれた句が多数収められています。多くの俳人は俳句を職業としているわけではなく、本業を持っており、それゆえその職業ならではの視点や体験が感じられる句が生まれるわけですが、警察官の俳句は珍しいのではないでしょうか。
 

  機動隊祭の中を闊歩して

  令状を手に明易き町走る

  捜索の範囲広げて草を刈る

  幼な顔残す巡査に夏来たる

  パトカーを磨き勤労感謝の日

  風船を配る婦警の笑顔かな

  聞き込みの成果あがらず土用照

  秋祭警察署長餅を撒く

 

 佐藤氏の句について「山茶花」主宰の三村純也氏は序文で「警官でもない人が作れそうにも感じるが、やはり、その職にあった方ならではの実感がこもっていて、刑事ドラマのワンシーンとは異なっている点に注意しなければならない」と述べています。三村氏の指摘を踏まえて句を眺めてみると、たしかにそうだと納得します。

 

 たとえば〈捜索の範囲広げて草を刈る〉は現場検証の景でしょうか。あるいは昨今痛ましい報道も多い、行方不明の子どもの捜索かもしれません。現場の近くだけでは捜索が不十分だと判断され、その範囲をひろげることになったものの、あたりには草が茂っており、まずは視認しやすいように草を刈らなければならない、そういった状況が思い浮かびます。こういった場面が刑事ドラマでことさら描かれることはまずなく、「捜索」の場面のリアリティを感じさせます。〈幼な顔残す巡査に夏来たる〉〈聞き込みの成果あがらず土用照〉の季語「夏来たる」「土用照」も、その場にいあわせた者の皮膚感覚が伝わってくるようです。

 

 加えて、こうした実感のなかにユーモアが感じられるのも、佐藤氏の句の個性ではないでしょうか。〈機動隊祭の中を闊歩して〉の「闊歩」は、祭りを楽しむの人々から投げかけられる、ちょっとびっくりしたような視線を自覚しているからこその言葉選びでしょう。祭りにまざる機動隊のものものしさを内心で苦笑いしているような雰囲気もあります。〈秋祭警察署長餅を撒く〉は、いかにもありそうな、おめでたい場面です。

 

 こうしたユーモアの資質は、警察官ならではの俳句から離れた作品にも見られます。

 

  レポーター佞武多衣装を着せられて

  呼びかけのマイク無視してプールの子

 

 一句目、故郷・青森のねぶたの様子をテレビで観ているのでしょう。画面を賑やかにするためにレポーターがねぶたの衣装を着せられています。「着ている」ではなく「着せられている」ということは、普段は生真面目が売りのレポーターなのかもしれません。二句目、「呼びかけのマイク」は、「そこの子、危険だから走らないでください」というような、監視員の声かけ。それを無視する悪い子をひやひやしながら眺めています。

 

  おほつぴらに駐車違反し苗運ぶ

 

 こちらは苗箱を運んできた軽トラックを詠んだ句。農村部ではよくあることゆえ、誰もとがめません。元警察官の作者も、でしょう。(編集部)