編集部へのご恵贈ありがとうございます
2021年以後の刊行書から順不同でご紹介します
2021年4月
角川文化振興財団
定価:2700円+税
「汀」主宰の第4句集。句集名の「夜須礼」(やすらい)は「京都今宮神社の摂社、疫神社の祭礼で、三大奇祭「安良居祭」の傍題」(「あとがき」)とのこと、句集中の〈夜須礼の花傘を呼ぶはやち風〉から採られています。
広い題材、豊富な語彙、克明で質感のある描写、どの句も重厚で読み応えがあります。
正月の浜辺に遣ふ傀儡舞
榛の木の夕影を曳く野分後
杉桶のうすく湿れる花見鯛
あらたまの光の差す浜辺にて、砂を踏みながら人形を操る傀儡師、高い榛の木の影が伸びる野分の後の荒れた地面、鯛の湿りがほんのりと移った木桶。取り合わせの1・2句目は「正月」「野分後」という季語が強く効いており、場に流れる空気まで感じ取れ、一物仕立ての3句目は「うすく湿れる」という表現が物の質感を伝えています。
日本的なゆかしい事物に取材する句が多いのですが、その味わいは和歌的というよりはまさに俳諧的です。
惜春の膝にほどきぬ茶巾鮨
ぶつ飛べる神輿洗ひの祓水
和歌の情緒を継承する貞門、卑俗な言葉あそびの談林ののちに、日常の事物に詩情を見出す蕉門が登場して俳諧が完成した、とはよく言われることですが、「惜春」の情緒を膝の上に乗せて食べる茶巾鮨に発見した1句目は、その意味でまさに俳諧の手法で詠まれていると感じます。2句目の「ぶつ飛べる」という言い方は強烈に「俗」ですが、「神輿洗ひの祓水」との出合いによって、興趣を持ちました。
あらたまの金唐紙(きんからかみ)の貝合
水瓶(すいびやう)に花鳥尽くせる霜夜かな
ゆかしい言葉の数々にも魅せられます。「金唐紙」「水瓶」という言葉や響きの美しさにページをめくる指が止まります。
大楠は風のよりしろ雛流し
ひかり寄せくる七草の汀なり
みづぎはのすとんと翳る花真菰
言葉の妙が景を作り出し、洗練させている句。「風のよりしろ」という比喩、「七草の汀」という省略、「すとんと翳る」という描写……。一句ごとにさまざまな技巧が凝らされており、それゆえどの句にも華があります。熟練の技に唸らされる一冊です。(編集部)