本の森

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2021年以後の刊行書から順不同でご紹介します

黛まどか句集『北落師門』


  令和4年7月
  文學の森
  定価:1980円+税


 

 

 『てつぺんの星』から10年を経た第8句集。国内外を歩きながら詠んだ句のほか、2020年に逝去した父・黛執氏とともに雑誌で連載した「親子響詠」の句などを収めます。

 

 黛まどか氏というと、〈旅終へてよりB面の夏休〉(『B面の夏』1994年)等、現代的ではつらつとした句の作者というイメージを今でも持っている方が多いのかもしれません。しかし、むしろ今世紀に入ってからの氏の句には、格調の高さを志向するようなところがあります。


 この『北落師門』で目に留まるのも句柄の大きな句です。

 

 頂を違へて花火開きけり

 潮騒の炎を囃すどんどかな

 芽柳や橋に果てたる鯖街道

 焚くほどの春の落葉となりにけり

 

 「頂を違へ」「炎を囃す」「橋に果てたる」「焚くほどの」といった措辞が巧みで句に奥行きが感じられます。

 

 番台のひつきりなしに御慶受く

 お遍路の郵便局に立ち寄れる

 校訓は良妻賢母山笑ふ

 

 場面の切り取りに唸らされる句も多々あります。地域に愛される古き良き銭湯、遍路の格好のまま郵便局に入ってくる人に驚く他のお客さん、時代がかった校訓が今なお体育館の扁額に書いてある田舎の学校。情景やドラマが目に浮かぶようです。

 

 〈澄みわたる山河を残し逝きにけり〉は父・黛執氏が没した際の句。〈春待つてをり父の句を口ずさみ〉も没後の句です。〈分校の春オルガンのふがふがと〉(『春の村』2016年)をはじめ、平明でおだやかな執氏の句は、春を待ちながら口ずさむのにぴったりです。執氏が亡くなった悲しみが、こうした作品を口ずさむうちに、少しずつ癒されてきていることを願うばかりです。(編集部)