編集部へのご恵贈ありがとうございます
2021年以後の刊行書から順不同でご紹介します
2021年8月
角川文化振興財団
定価:2200円+税
2019年に第65回角川俳句賞を受賞した著者の第2句集。どの句も句意が明瞭で、発見があります。
手花火の明るさ家族ひとつ分
手花火をいたはるやうに屈みたる
子の去りて線香花火持て余す
花火観る闇に子どもを叱る声
筵敷き花火の空を奪ひ合ふ
句集前半に並ぶ花火の句から引きました。1・2句目は「家族ひとつ分」「いたはるやうに」という措辞が巧みです。3句目は、子どもを喜ばせるために線香花火をしているのに、子どもにはそれがわからないからどこかへ気が逸れてしまって苦笑するという景。著者はこのような人事句の名手で、花火大会の雰囲気を質感的に描き出した4句目は、この句集ではむしろ珍しいテイストという印象です。
5句目は花火大会が始まる前の夕景。早めに出て場所取りに奔走する人々の姿を、〈紅梅や枝々は空奪ひあひ〉(鷹羽狩行『月歩抄』1977年)に引っ掛けて詠んだ句でしょう。筵を広げているのは地面なのに、それが結果として空を「奪ひ合ふ」ことになっているところに意外性があります。
目の前を運動会の砂の音
一晩で穴釣の穴みな消えし
1句目、レジャーシートに座って運動会を観覧する親の視点はちょうど走り回る子どもたちが上げる足の高さで、子どもたちがスニーカーで地面を蹴って跳ね上がる砂が間近に感じられます。2句目、昨日はあちこちにあったはずの氷上の穴釣の穴が、再びの凍結や積雪でもうはや埋まっていました。この2句も発見の句といえるでしょう。
すべて雑音秋風の音のほか
サイダーにだらだらと日の暮れてゆく
秋風のすさぶ音、夏の日の暮れざま。自然現象を詠むときにも「すべて雑音」「に」「だらだらと」といった措辞が前面に押し出されています。著者の関心は「いかに把握するか」という点にありそうです。(編集部)